留置場

SS置き場

魔女

「おっと、これ以上俺に近寄るな? 近寄ると、宝の在り処が分からなくなる」
 ロジャーは自分を囲う4人の山賊に向かって堂々と言い放った。
「ああ? 宝だって?」
「その通りだ。おっと、そこのお前さん、動くんじゃないぞ」
 じりじりとロジャーににじり寄っていた、4人の内で一番の大男に、ロジャーは釘を刺す。大男の山賊は、細身で貧弱なロジャーに命令されたことに怒りをあらわにし、ロジャーに今にも飛びかからんとしていた。
「動くんじゃねえクリス!」
 バンダナを巻いたリーダーらしき山賊が、クリスと呼ばれた大男を制した。リーダーの言うこととなると、クリスはしぶしぶ従った。
「そうだ、それでいい。いやぁ、頭のいい連中のようで助かったよ」
「余計なことを喋るな」
 へらへらした口調で話すロジャーに、リーダーが段平の切っ先を向けて言う。
「宝の在り処を言え」
「へっ、まぁまぁ焦りなさんなって。なんせ宝はここにあるんだからさ!」
 ロジャーがそう言った直後、「ひっ」という小さな悲鳴が、ロジャーの耳にだけかすかに聞こえた。  山賊のリーダーは、ロジャーがわざと遠回しな話し方をしていることに気づき、苛立ちを見せた。
「持ってるんだったら、早くそれを出せ!」 
「あわてなさんな。お宝はここにあるが、俺は持っていない。お宝の在り処はそう、俺のポケットの中ではなく、ここだ」
 ロジャーは自分の左側の何もない空間に向かって、両手を振り下ろした。その手は空中でいきなり静止し、まるで人の肩をポンと軽く叩いたかのような音が鳴り響いた。
「ひゃあっ!!」
 その直後、甲高い悲鳴とともに、ロジャーに肩を叩かれた人物の姿がほんの一瞬だけ現れた。それはひらひらした可愛らしいエプロンドレスを着た、青緑色の髪の少女だった。
 4人の山賊は同時に驚いて後ずさった。そして少女の姿があった場所をまじまじと見つめる。ロジャーだけは落ち着いた微笑を浮かべていた。両手を透明人間の肩に乗せたまま。
「そう、ここにおわしますのは自由自在に姿を消すことのできる魔女。それもとびきりの美少女なのです。気づかなかったでしょう?」 
「なに言ってるのよバカ!」
 ロジャーの隣から少女の怒号が響く。山賊たちはまたもや、その声のした場所に目を奪われた。
「私のことをバラして何があるっていうの?! 黙っていて頂戴よ!」
「いや、ジャスミン、君一人だけ透明化の魔法でいつでも逃げられるってのは、不公平だなぁと思って……」
「んん〜〜もうっ!! ほんとにバカなんだから!」
 山賊たちは、何もない場所から聞こえる怒った少女の声に呆気にとられていた。が、リーダーとその隣にいた山賊はいきなり後方に突き飛ばされ、尻餅をついた。
「あ、置いてかないでよ、ジャスミン!」
 ロジャーは尻餅をついた山賊の間を通り抜けて走り出そうとした。しかし、残りの山賊2人に襟を掴まれてバランスを崩した。ぐいと引っ張られ、2人がかりでがっしりと拘束される。
「おい、逃げんじゃねえ!」
 もがいて抵抗しても力かなわず、ロジャーは諦めた。そして山賊に視線を向け、苦笑いをしながら言った。
「へへ……お、お宝はもうここにはありませんぜ?」