留置場

SS置き場

いつか止む音楽

 私の家は貧乏だから、ペットは高くて買えなかった。本当は犬が飼いたかったんだけど、私はまだ子供でお金を稼げないし、仕方なく諦めていた。

 だがある日のこと、ついに私はうちでも買えるほど値段の安いペットを見つけることができた。値札に書いてある金額は、なんと4000円! それも、大好きなミニチュアダックスフンド

 ペットがこんな値段で売っているなんて信じられないけど、ミニチュアダックスの中でも特に小さなわんちゃんだから安いのかな、と当時は思っていた。

 お母さんはこんなに安くてもお金が惜しいようで、ウンウン悩んでいたけど、懸命におねだりしたら、流石に買ってくれた。

 お母さんが店員さんに「どうしてこんなに安いんですか?」と聞いたら、店員さんは「寿命が1年しかない犬なんです」と答えた。私は値段の理由に納得したけど、ペットが本当に喉から手が出るほど欲しかったし、1年もあるなら十分! なんて思うほどだった。

 私が考えた名前は「ダッシュ」。急ぎ足で遊ばないと1年があっという間にすぎてしまう気がしたから。私はダッシュが本当に大好きだったし、事実ダッシュとわたしは誰よりも仲良しのペットと飼い主だった。毎日がこれまでの2倍、いや10倍華やかなものになって、私は1日も欠かさず笑っていた。

 最初は檻に入れて飼っていて、私がダッシュと一緒に寝たいってお母さんに言ったら、1回だけ許してくれた。だけどダッシュが家の中で凄く利口にしているので、私がもう一度ダッシュを檻に戻さなくても、お母さんもお父さんも注意しなかった。

 ダッシュは名前の通り走るのが大好きだった。だから私は人生で初めて田舎に住んでいてよかったと思った。当時私とダッシュがそこら中を縦横無尽に走り回っていたのは、近所に住んでいる誰もが知っている。私はそれまで走ることが特別好きではなかったけど、ダッシュと同じく大好きになった。

 走るのが好きと言っても、ただ適当に走り回っていたわけじゃない。色んなところへ探検へ行ったのだ。ダッシュと居ると、1人では怖くて行けなかったところでもずんずん行けてしまった。新しい道や建物を発見したし、以前は不気味で近寄ろうとしなかった小屋へ入ってみたりもした。まあ、中には特に何もなかったから、あれだけ不気味がってたのが馬鹿らしくなったけど。

 

 ダッシュと出会った日から1年後、本当にダッシュは死んだ。ダッシュは最後まで元気一杯で、突然何の前触れもなくあの世へ行った。私は散々泣いた。でも少しずつ弱っていく死に方だったらもっと悲しかったと思う。苦しそうなダッシュの姿を見るのが一番辛いだろうから。この時ほど、お母さんが私とダッシュの写真を一杯撮ってくれたことが嬉しかった時はない。

 1年後に私は2匹目のペットを買ってもらった。私がちゃんと自分でペットの世話をしたから信用がついたのと、ダッシュがいた頃よりも私が少し元気をなくしていたからだ。次は普通の値段の、何年も寿命がある普通のペットにした。というか、ダッシュみたいなペットはもう二度と見つけることはできなかったけど。

 しかし、そのペットも2年ほどで病気で死んでしまった。普通の値段で買ったのに! って冗談は絶対に思い浮かばないくらい悲しんだ。ダッシュのときと違って寝たきりになり、時々苦しそうにクゥンと鳴くから、私はどこも痛くないはずなのに心臓が締め付けられているようだった。2匹目のペットが死んだのは、中学校の入学式の直前だった。私は大きな不安を抱えながら入学式へ臨むこととなった。

 

 幸い、私は中学校で仲のいい友達を作ることができた。ペットを失った傷は徐々に癒えていった。

 たまに私は「またペットが欲しいなあ」と友達にこぼす。それを聞いた友達に「前のペットのこともう忘れちゃったの?」とか「あんたすぐ浮気しそう」などと、からかいまじりに言われたことがある。でも私はそんなことはこれまでの人生で1秒すら考えたことはない。ペットと過ごした時間はいつだって楽しかったし、それはペットも同じだろう。誰かが不幸になる余地はどこにもなく、そんな心配をしている内にも私の命は着実に死へと進み続けている。

シャトル

「あー、あー、聞こえますか?

 テステース、マイクテース、聞こえますかー?

 応答願いまーす。どうぞー。

 えー、これを聞いてる人へー、メッセージ。

 うんこ! うんこを食べましょう。ふふっ。

 うんこは大変健康に良いのです。2010年代の人たちは知らないでしょうが。

 100年後の世界ではうんこは健康食として普及してますよ。時空法第123条に背いて、 私が教えてあげます。

 

 ああ、あともう一つ良いことを教えてあげます。

 あなたたちが今ハマってるスマートフォンですが、100年後は多くの人間の敵になってますよ。一般庶民は常にスマートフォンに監視されて生きている状態です。24時間、365日、スマートフォンの奴隷です。スマートフォンが指示した通りに労働し、スマートフォンの計画したスケジュールによって生活させられています。

 スマートフォンを手放すと、終身刑になっちゃうんですよ。

 あなた方にとっては魔法のアイテムのようですね。私にはそんな風には到底思えませんよ。

 これは私からのお願いなんですけど、スマートフォンを持っていたら壊してくれませんか? これが普及してなんかいなければ、こんな世界にはならなかったと思うので。想像してみてください。その大好きなスマートフォン服従させられて生きるのなんて、イヤじゃないですか? 私らには人権なんてあってないようなものですよ。

 頼みましたよ。私が重大な犯罪を犯してまで、あなた方に伝えたことですので。

 

 あ、最初のうんこが健康食ってのは嘘です! ごめんなさい!

 でもスマートフォンの話は大マジなので、本当にお願いしますよ。

 それでは、健闘を祈ります」